アイムピンチ 美容液

イメージモデルに大抜擢?

 

今回お願いするのは、この新企画のイメージモデルよ。


 

 

『スマイルメッセージ・旅立ちの日』?


 

手渡されたA4用紙を、私はゆっくりと読み始めました。

 

ここは、子ども専用フォトスタジオ「プレシャスデイ」の本社ビル、企画会議室。

 

旧友の佐恵子から驚きの申し出があったのは、ほんの1か月前でした。

 

同窓会で、20年ぶりに再会した佐恵子。

 

高校時代もリーダー的存在だった彼女は、今や全国展開する大企業プレシャスデイの企画部主任を務める、正真正銘のキャリアウーマン。

 

その時に娘の真鈴の写真を見せたところ、なんと新企画のイメージモデルに採用したいと言い出したのです。

 

 

フォトブックみたいなものだけど、七五三みたいに衣装を着てスタジオで撮影するんじゃなくてね。プロのカメラマンが、自宅まで行って撮影するの。斬新でしょ?


 

佐恵子はワイン色に塗られた形の良い爪を、あごに当て続けました。

 

 

え……ああ、うん。斬新だね。


 

思わず、彼女の白くて瑞々しい肌に、釘づけになっていました。

 

再会した佐恵子は、同い年とは思えない程綺麗でした。

 

もともとスタイルも良くて美人だったけれど、私みたいに、老けこんだ印象がまるでないんです。

 

きっと仕事も私生活も、充実しているんだろうな……。

 

 

けど、本当に真鈴でいいの?プロの子どもモデルじゃなくて。


 

 

大丈夫よ、イメージピッタリだもの。ね?藍ちゃんもそう思うでしょう?


 

佐恵子はそういうと、隣に座っているショートヘアの女性に目をやりました。

 

一緒に新企画を担当している、部下の藍さんです。

 

藍さんは大きな眼鏡を指先で上げ、微笑みもせず小さく頷きました。

 

何だか、歓迎されていないような気がしますが……。

 

当の真鈴は、やる気満々。

 

企画室には、有名タレントがデザインしたという華やかなドレスが飾られていて、アイドル志望の娘の目は輝きっぱなしです。

 

不安はあるけれど、本当は飛び上がるほど嬉しかった私。

 

もしかして、これがアイドルデビューのきっかけになったりして?

 

そんな妄想をしていたものだから、佐恵子の説明がうわの空になっていました。

 

 

このフォトブックの目的はね、子どもが旅立つ日、例えば進学とか結婚とかで親元を離れる時にね、我が子にプレゼントするためなの。子どもが大きくなると、照れくさくってお互いに言いたいことも言えないじゃない?


 

 

うんうん、そうね。


 

 

だから、言葉の代わりにこのフォトブックを渡すの。フォトブックを受け取った我が子が、ママと過ごした幼い日々を思い出してね、母親の愛情を改めて感じるっていう……。ああもう、想像しただけで泣けてきちゃう。私、子どもいないけど。


 

そう言って、テーブルの端に置かれたティッシュに手を伸ばし、音を立てて鼻をかむ佐恵子。

 

飽きれたように肩をすくめ、隣の藍さんが説明を続けました。

 

 

つまり、お子さんとお母さんの日常の姿を、プロカメラマンが撮影して一冊のフォトブックを作るという企画です。


 

 

うんうん。お子さんと、お母さんをね。……え?お母さん?それって私も写真に写るってことですか?


 

 

当然です。お母さんとの思い出を写真に残すのですから。


 

 

……って、え?無理無理無理!


 

私は慌てて、手にしていた企画書を佐恵子につき返しました。

 

 

私も出るなんて、聞いてないし!


 

 

言ってなかった?


 

 

言ってなかった!


 

私は両手で顔を覆い、首をぶんぶんと横に振りました。

 

 

ママ役はプロモデルでお願いしますっ!


 

 

リアルな親子をイメージモデルにしたいのよ。


 

 

そりゃ、プロじゃなくても佐恵子みたいに綺麗だったらいいかもしれないよ?けれど、私なんて……


 

ママになっても、綺麗な人はたくさんいます。

 

けれど要領の悪い私は、家事育児に追われ、丁寧なスキンケアを怠ってきました。

 

もともと乾燥肌だったこともあり、目尻のシワやほうれい線が目立つようになり、化粧では誤魔化しきれなくなってきました。

 

私はそっと、傍らに座る真鈴に視線を落としました。

 

漢字ばかりで全然読めないはずの企画案を、真剣な顔をして見つめています。

 

 

真鈴、ごめんね。このモデルはね、可愛いお洋服を着てスタジオで撮影するモデルと違うんだって。だから、残念だけど今回は……


 

 

真鈴やりたい!


 

 

ママはできないから、お断りしようね!


 

 

大丈夫よ、真奈美なら。


 

 

何にも大丈夫じゃないわ!こんな私がモデルだなんて、笑われて終わりよっ。


 

 

ゴホン!


 

年甲斐もなく大騒ぎする私を制したのは、藍さんの大げさな咳払い。

 

 

撮影日も決まっていますし、今さら他の親子を手配することはできません。


 

 

そ、そんな〜……


 

もう、泣きたい気分です。

 

 

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